投稿日:2014年10月01日

天白の名の由来

天白川や天白区の地名の由来を調べてみました。
地史関連の本を見ると、なぜ天白川と呼ばれるようになったかは、はっきりしています。ですが「天白」の語源そのものについては、一筋縄ではいかないようです。

天白川

天白社が元になっている

「緑区の歴史」という本によると、天白川の名前は、緑区の三王山という場所に、かつて山王社という小さな神社があり、その中に天白社という社があって、それが由来となっている、とのこと。

山王神社は、比叡山の東にある日吉大社の別称で、神仏習合時代には山王権現と呼ばれたことに由来します。

正体不明の信仰

ところが、天白社については、正体が不明で、研究者にも諸説あるとのことです。 wikipediaの解説によれば、本州のほぼ東半分にみられる民間信仰で、その内容は、星・水・安産祈願など多岐にわたるとのこと。

星の信仰

天白とは、天一神と太白神から出たもので、星の神という説があります。伊勢神宮には、天白が星の神であることを示している「てんはくのうた」という神楽歌が伝わっています。

オシラサマ信仰

緑区の歴史という本には、てんぱくと音読みされる以前は、おしら様(オシラサマ)と呼ばれた時代があり、それが大陸からやってきた道教と習合されて、天白神信仰になった、という説が紹介されています。ちなみに、オシラサマはアイヌのシランパカムイだったと、梅原猛先生は説いています。

渡来系の信仰

白髭神社が全国にあります。これは、古代の新羅系渡来人が、自分達の祖先を「新羅明神」として祭ったものが元になっているといわれます。「新羅(しらぎ)」は、「白(しろ)」に通ずるというわけです。古代の有力氏族の「白猪(しらい)」氏も渡来系です。白猪氏から分かれた荒田井氏は、緑区鳴海の辺りに住んでいたようです。「天白区の歴史」の著者は、渡来系の信仰説をとっています。

柳田国男説

民俗学者の柳田国男は、天白は風の神かもしれない、としています。

先住民族の信仰

今井野菊氏によれば、水耕農業民族に先立つ原始農耕民族の信仰ではないか、ということです。

修験道から

江戸時代の国学者・谷川士清は、国語辞典『和訓の栞』で「伊勢国の諸社に天白大明神というもの多し。何神なるかを 知るべからず。恐らくは修験宗に天獏あり。是なるべし」としています。

その他の説

その他にも、こちらに紹介されているように、天白信仰の正体については諸説あります。チベット仏教の大天白(ターテンパイ)から来ている、という説もあります。

隕石にかかわりがある?

個人的には、星の信仰ではないか、という気がしています。というのは、緑区の三王山のすぐ近くには、隕石に由来する星崎があります。上記に紹介した志摩市大王町の天白信仰も、やはり隕石に関係するとのこと、東日本に分布していることと、「てんばく」と音読みされていることをあわせて考えると、大和王権の支配下に入った原住民の信仰だったのではないか、とも思います。志摩の大王町にも、天白川近くにも旧石器時代からの遺跡があるので、ひょっとしたら、それくらいの時代に遡るのかもしれません。

緑区三王山付近の地図


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追記:伊勢起源の信仰?

上記の記事を書いた後で、天白信仰について関連書籍を調べてみました。 結論からいえば、天白は三重県の南勢(伊勢志摩)起源の信仰のようです。山田宗睦氏によれば、ある時期に、三河、伊那谷、諏訪方面へと伝わり、その伝播の過程で、天白信仰のありようも多様に変容したのではないか、とのこと。

当初はどのような信仰で、いつ頃、各地に伝播したか?

山田宗睦氏の説になりますが、結論からいうと、伊勢土着の豪族で、機織りを生業とした「麻績氏」という氏族の祖神「天の白羽」が天白の元ということです(参考:天白信仰 菰野町HP)。 長野県に麻績村がありますが、これは麻績氏に由来しています。

天白信仰は、7〜8世紀にヤマト王権の支配から逃れるように信州へ移動した麻績氏によってもたらされたかもしれない、と山田氏はいいます。天白信仰が伊勢より西にはほとんど分布していないことを考えると、追われるように逃げた、という解釈が当てはまるのではないか、と個人的には思います。

「天ノ白羽」は、長白羽神という名で「古語拾遺」に登場します。「天ノ白羽」は、麻績氏が奉仕していた神麻続機殿神社の祭神でもあり、伊勢土着の神とのことです。

「天ノ白羽」は記紀には登場せず、伊勢神宮にも祭られていませんが、伊勢神宮の神楽の中に、上記の「てんはくのうた」があり、そこに痕跡をとどめています。「てんはくのうた」からすると、「天ノ白羽」は、やっぱり星の神が起源なのだろうか、と思います。

まとめ

取り留めのない記事になってしまいましたが、それだけ把握しにくい信仰です。各地の天白は、神道の神々と一緒に祭られていますが、もともとは神道とは別の土着信仰といえそうです。色々と興味深いので、また機会があれば調べてみようと思います。
前回投稿:2014年07月03日


posted by nagoyasanpo at 15:50 | Comment(2) | 天白川
この記事へのコメント
天伯神・・・
私の説は「天呉・水伯」の合成語です。
Posted by 戦国雑記 at 2020年07月28日 19:12
コメントありがとうございます。

noteの記事を拝見いたしました。

中部地方を中心に、広く分布する天白の名前は、とても興味深く思います。

中日新聞『天白紀行』では、「天白の起原を天ノ白羽に求める」との見解があり、拝読しましたところ、一定の説得力を感じました。
Posted by 管理人 at 2023年01月18日 15:24
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