2013年のベストセラー
※この記事には、ネタバレなどがあります。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」2013年の年間ベストセラーで総合1位になったという話題の作品です。発売当初、村上春樹が名古屋を舞台にした小説を書いたと聞いて、名古屋市民として気になっていましたが、手付かずでした。
モデルの高校は瑞陵高校?
最近、ネットで、「多崎つくる」のモデルになった高校が瑞陵高校ではないか、という書き込みを見て、関係者として、さっそく読んでみることになりました。具体的な描写はなし
結論から言えば、こちらの分析から、瑞陵ではないか、と推測できる程度で、確定できるような具体的な描写はありませんでした。個人的な想像ですが、「日本のシンドラー」こと杉原千畝氏の出身校と言うことで、「参考」にしたのではないか、という気がします。数年前に、イスラエル政府によってオリーブの植樹式が行われたという全国ニュースがありました。名古屋に関する描写
名古屋に関する描写ですが、基本的には、東京するめクラブ 地球のはぐれ方を敷衍しているようです。名古屋をバカにしている、という書評も見かけましたが、そのようなことはありません。「東京するめクラブ 地球のはぐれ方」の中では、とても面白い都市、と作者が書いています。というよりも、「東京するめクラブ 地球のはぐれ方」でも書かれた名古屋の特殊性を作品作りに利用した、というべきかもしれません。たとえば同書には、名古屋は、アメリカ映画にあるような、いままでのアイデンティティを捨てて他所の町で新しい人生を送る、といったアイデンティティのすり替えを容易にできる都市、と書かれていました。書籍情報
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【詳細】
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 著者:村上 春樹 ハードカバー: 376ページ 出版社: 文藝春秋 (2013/4/12) |
読書感想
さて、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の読書感想ですが、作中人物が同世代に近いとあって、かなり共感をもって読み進めることができました。以下ネタバレがあります。
宗教団体の暗喩
本作品は、苗字に色のついた四人と主人公「つくる」による、「乱れなく調和する共同体」が作品のコアになっており、この「共同体」は、おそらく20年前にニュースを賑わした、村上春樹氏にとっても馴染み深いあの宗教団体の暗喩ではないかと推察されます。名古屋に舞台を選んだ必然性
そうなると、舞台を名古屋に選んだのは、必然だったかもしれません。地軸がちょっと歪んでいて、外から見るとちょっと変だけど内側から見ればずっといつ居てしまうような中毒性がある、というようなことを作者は「するめクラブ」で書いています。真相は不明だが
となると、「アカ」という人物が、秘密の鍵を握っているに思います。「乱れなく調和する共同体」が崩壊してからも、新興宗教っぽい会社を立ち上げたり、「共同体」のきっかけになった教会に寄付を続けていたりするのは、まるで代償か贖罪のようだと言えます。アカという人物のセリフも、表面どおりに受け取れません。「シロ」の不幸にアカが関わっていた、あるいはアカとシロが裏でつながっていたのではないかと推察されます。タバコという小道具がそれを示唆しています。
色彩の意味
色彩については、霊的な世界の住人が白、黒、灰色と表現されていて、物質的な世界の住人が、赤、青と色付きで表現されており、主人公は、そのどちらでもない、両方を行き来する存在だと解釈できます。夏目漱石の「こころ」の語り手が、「先生」と「故郷」を行き来するようなものです。いろんな角度から楽しめる
本作品は、ハルキストの方からはいまいち評価が高くないようですが、個人的には、ミステリー的な楽しみ、純文学的な含蓄、地元民としてのひいきと、何重にも楽しめました。今まで読んだ小説の中でもベスト3に入るくらいの評価です。これを機に、小説をいろいろ読んでみようという気になりました。
おそらく瑞陵高校関係者の狂言(最近は「自作自演」という誤用が定着しつつありますが)でしょう。